前年度は、全唾液、耳下腺唾液、顎下腺唾液のプロトンNMRスペクトルの検討結果、測定時間、検査に必要な試料量、信号雑音比、分解能等の観点より、耳下腺唾液が分析に最も適している可能性を示唆した。そこで、今年度は、次段階として、25歳以上の成人健常者男女7人ずつ計14人の耳下腺唾液のプロトンNMRスペクトルの高磁場領域を以下の点について測定した。(1)唾液採取後のスペクトルの経時変化(2)年齢差(3)性差(4)スペクトルの化学シフトの日周変化。その結果、経時変化として、唾液採取後9時間室温で保存してもスペクトルに変化が認められず、48時間後には、一部スペクトルの消失が認められたが、-20度で48時間凍結保存後常温で解凍して測定して得られたスペクトルには、+5度で保存したものとの間に差が認められなかった。年齢差、性差については、25歳から60歳の間に於いてはスペクトルの化学シフトに差が認められなかった。また、経時的に一日3回耳下腺唾液を採取し測定を行ったところ、耳下腺唾液のプロトンNMRスペクトルの高磁場領域は、スペクトル強度が午後最高値を示すが、化学シフトには日周変化は認められなかった。以上より次の結果が示された。(1)唾液は常温では採取後9時間スペクトルに変化を認めず、凍結保存も可能(2)25歳から60歳の年齢層では耳下腺唾液のプロトンNMRスペクトルの高磁場領域には固体差がない(3)耳下腺唾液の採取はスペクトル強度が最高値を示す午後行う方が、スペクトルを帰属するには有効である(4)耳下腺唾液のプロトンNMRスペクトルの正常型が同定された。 また、顎下腺及び舌下腺唾液の混合唾液についても、プロトンNMRスペクトルの高磁場領域を検討したところ、耳下腺唾液と同様の傾向が認められ、スペクトルの正常型を同定した。
|