ヒト真菌症の主要な起因菌であるカンジダ・アルビカンスは、呼吸欠損変異が起こらない酵母とされていたが、我々は高温下での化学変異原処理により呼吸欠損株の誘発・分離に成功し、それらの形態学的並びに生理学的性状を報告してきた。本研究では野生親株と呼吸欠損株のミトコンドリア(Mt)DNAの制限酵素地図を構築し、その差違を明らかにすることを目的とした。 実験には野生親株(K株)とチトクロ-ムaを欠き、Mtのクリステ構造のない呼吸欠損株(KRDー19)を用いた。通常酵母細胞に含まれるMtーDNAの量は、核DNAの数%に過ぎず、その分析にあたっては核DNAの混入をなくすことが必須である。そこで先ず、K株を用いてMt純化法を検討した。細胞壁溶解酵素処理で得たプロトプラストから、分画遠心を繰り返し核を除いて得たMt標品、分画遠心の途中でDNA分解酵素処理を行ない核DNAを除いたMt標品のいずれからも核DNAの混入のないMtーDNAを得ることができた。このMtーDNAを数種の制限酵素で分解し、生じたDNA断片のアガロ-ス・ゲル電気泳動分析から、分子サイズが約4万塩基対の環状MtーDNAの制限酵素地図を構築することができた。次にKRDー19株からMtを分離・精製し、そのDNAを分析した。その結果、高分子DNAは分離されていたが、これを制限酵素で分解しても分解物はゲル全体に広がり、特定の分子サイズを持つDNA断片は生成されなかった。この結果はMt標品にまだ核が混入しており、MtーDNAの分析を妨げていることを示唆している。現在、核DNAの混入を除くためCsCl密度勾配遠心法でMtーDNAを精製しており、この方法で変異株のMtーDNAの制限酵素地図の構築を目指している。
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