研究概要 |
63年度の設備備品などよりなる新しい筋力学特性解析システムを用いて、咀嚼筋の活動時での動力学特性とATPase活性を知るため、グリセリン処理後、Ca^<2+>を含むMgATP溶液で活性化した、いわゆるスキンド標本(咬筋、側頭筋及び顎二腹筋)を用いて、ステップ状、正弦波状及び擬似ランダムノイズ状の微小筋長(標本全長)或は微少セグメント長変化に対する張力応答を解析した。いずれの応答も,既に他の骨格筋で報告されているように、三つの異なる時定数(TC)、大きい順にT_1、T_2、T_3を持つ指数関数で近似できた。T_1は張力応答が筋長(或いはセグメント長)変化に対して位相進みを示し、その振幅が周波数の上昇と共に増大する低周波領域の応答から求められ、T_2は張力応答が位相遅れを示し、その振幅が周波数の上昇と共に減少する中間の周波数領域の応答から求められ、T_3は周波数をさらに上昇させた時の張力応答が位相進みを示し、その振幅が周波数の上昇と共に増大する領域から求められた。標本全長を対象とした場合とセグメント長を対象とした場合の違いは張力応答の振幅のみであり、求められた時定数の値に差は無かった。このことは標本両端損傷部分は単に直列弾性要素として働くことを意味し、困難を伴うセグメント長解析を行わなくとも筋長全体を対象とした実験のみからでもcross-bridgeの動力学特性を同定できることを意味している。本研究では特にcross-bridgeのcycilng rateを反映するといわれているT_2とT_3に注目した。正常モルモットを用い、飽和Ca^<2+>濃度にて活性化した標本では、T_2、T_3の値は共に顎二腹筋>側頭筋>咬筋の順に小さく、そのATPase活性は側頭筋>咬筋>顎二腹筋の順であった。発生張力は側頭筋>咬筋>顎二腹筋であり、tension cost(ATPase活性/張力)は顎二腹筋が他の二筋に比べて低かった。これらの関係が顎運動異常時に如何なる変化を示すか、咬合挙上動物を用いて現在検討中である。
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