咀嚼筋の動力学特性とATPase活性を知るため、新たに構築した筋力学特性解析装置を用いてグリセリン処理後、Ca^<2+>を含むMgATP溶液で活性化したモルモット咬筋、側頭筋、顎二腹筋スキンド標本にて、ステップ状及び正弦波微少筋長変化(標本の1%以下)に対する張力過渡応答及び等尺性収縮張力、ATPase活性、最大短縮速度のCa^<2+>感受性について調べた。張力過渡応答は三筋とも、既に他の骨格筋で報告されているように、三つの異なる時定数、大きい順にT_1、T_2、T_3を持つ指数関数で近似できた。本研究では特にcross-bridgeのcycling rateを反映すると考えられているT_2とT_3に注目した。最大張力発生時の標本では、T_2とT_3の値は共に顎二腹筋>側頭筋>咬筋の順に小さく、cross-bridgeのcycling rateがこれら三筋の中では顎二腹筋で最も遅く、咬筋で最も速いことが示唆された。等尺性収縮張力は三筋ともPCa6.6〜PCa5.8の範囲でCa^<2+>濃度の上昇と共にシグモイド状に増大した。ATPase活性は等尺性収縮張力のCa^<2+>感受性に比べると少し低濃度から少し高濃度のCa^<2+>濃度範囲でやはりシグモイド状に増大した。tension cost(ATPase活性/発生張力)の値は顎二腹筋が他の二筋に比べて低かった。最大短縮速度は三筋においてCa^<2+>濃度の上昇(すなわち発生張力の増大)と共に速くなり、同一張力レベルで三筋の最大短縮速度を比べると咬筋で最も速かった。これらの結果は張力過渡応答の解析結果と大変よく一致するものと思われる。この様な三筋の間に観察される力学特性の違いが顎運動異常時に如何なる変化を示すか、咬合挙上動物を用いて現在検討中である。張力過渡応答を調べるとき、解析時間を極力短くするため、疑似ランダムノイズ信号を用いた計測方法を考え、現在、その解析が比較的容易な収縮速度の遅い心筋標本を用いて計測誤差などの問題を検討中である。
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