顎機能異常者において、筋の疲労・拘縮等による筋の緊張度の変化は、臨床症状と密接に関連している。そこで本研究は、筋組織が粘弾性としての性質を有することに着目し、筋の硬さの変化を筋組織の粘弾性の変化として定量的に把握することを目的とした。 まず予備実験として、硬度の異なる3種類のゴム板(硬度30°、50°、70°、厚さ10mm)を準備し、この両端を固定して、ゴム板中央に加振器の先端を接触させ、振動振幅1mmで種々の頻度の振動を加えた。この時、加振器内蔵の加速度ピックアップから出力と、ゴム板上に設置したピックアップからの出力とをFFTアナライザーにより振動解析し、ゴム板固有の共振振動数を求めた。その結果、硬さの違いにより共振振動数に差が生じ、ゴム硬度の増加に伴い共振振動数の上昇が認められた。次に被験者に正常有歯顎者を用い、咬筋の筋弛緩時から収縮時における共振振動数をゴム板の実験と同様に求めた。この時、筋の状態を把握するため、咬筋EMGを同時記録した。その結果、振動振幅が1mmの場合、咬筋EMGの振幅の増大に伴い共振振動数の上昇が認められた。しかし振動振幅が0.5mm以下の場合では、EMGの変化にかかわらず共振振動数がほぼ一定の値を示した。これは、振動振幅が短くなると、筋ではなく表面皮膚の共振振動数が導出されたためと考えられる。 以上の結果から、筋にある一定以上の振幅を有する振動を与えた場合、被験者及び加振器内に設置した加速度ピックアップの出力を解析することにより、ゴムあるいは筋肉のような共振振動数の低い軟かい物体においても、加振器の特性を除外した共振振動数を測定し得ること。筋緊張の増大に伴い、共振振動数が上昇することなどが明らかとなった。以上から、共振振動数を計測することにより、筋の硬さをより客観的な数値として表わすことが可能であると考えられる。
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