スパッタリング法によって卑金属系合金(Ni-Cr系、Fe-Ni-Cr-Co-Mo系)と陶材との接合強さの改善ならびに接合機構の解明を目的として、前回はCrをスパッタ処理した場合について検討した。その結果、金属と陶材の間にCr酸化物を介在させることにより、良好な接合体を得ることに成功した。ひきつづき、今回は最近インプラント用や義歯用として注目されているTiをスパッタ材とし、前回と同様の方法でスパッタ処理を施して、陶材との接合強さの改善を試みた。結果を要約すると下記の通りである。 Tiスパッタ処理後、種々の条件で酸化処理したものについて陶材を焼付けたところ、処理条件によっては金属と陶材とが強固に接合するものと、逆に剥離するものとがある。例えば陶材焼成温度に相当する800℃60分の酸化処理のものでは、Tiを主とした複合酸化物層が著しく厚くなり、酸化物層内の所々に隙間ができて脆い状態になるために剥離しやすくなる。これに対して酸化物層の成長を抑制するような条件、例えばTiスパッタ処理後酸化処理を行わずに陶材焼成する方法のものでは、陶材とで強固に接合する。この接合体の界面を中心に電顕観察や線、点分析を行った結果によると、Ni-Cr系合金にはTi、Crが、またFe系合金ではTi、Cr、Feなどが陶材中に数μm拡散しており、引張試験を行ったところ、Ni-Cr系は330〜590kgf/cm^2、Fe系では120〜480kgf/cm^2の接合強さが得られた。 以上のように、卑金属系合金に対するTiスパッタ処理は、Tiを主とした酸化物層の形成を極力抑制するような方法によって良好な接合体が得られ、卑金属合金と陶材との接合を改善できることがわかると共に、Tiが陶材焼付用として有望であることが示唆された。
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