口腔癌は再建手術の発達に伴い進行癌の手術が可能になったが、充分と思われる手術を行っても再発、転移を起こす症例もあるのが現状である。口腔癌の制御率を上げるためには化学療法をいかに治療システムに組む込むかがポイントと言って良い。我々はすでに手術前・手術後にMTX・5-FUを少量で併用した化学療法システムを考案し、良い成績を得ている。今回はこの化学療法システムの有用性を検討する目的で、4種の口腔扁平上皮癌細胞株を用いてin vitroにおける抗癌剤感受性試験を行った。すなわちcolony forming assayによるchemosensitivity testを実施した。その結果、(1)現在臨床的に用いている薬剤量では、MTX単独では殺細胞効果が低く、5-FU単独の殺細胞効果は比較的良好であった。(2)MTXと5-FUの殺細胞効果は濃度依存性であり、又時間依存性でもあった。(3)MTX・5-FU併用による殺細胞効果については、実験に用いた4種の癌細胞株のうち3種で相乗的な効果が得られたが、残りの1種の癌細胞株では5-FU単独の方が生残コロニ-数が少ない結果が得られた。これらの結果より、in vitroの細胞はmicroenvironmentの差異や長期にわたる継代培養による特異な性質の獲得などによる抗癌剤に対する感受性や抗癌剤の細胞へのinfluxやexfluxが生体内の細胞とは異なっている可能性があり、またcolony forming assayではin vivoの薬剤動態を正確には反映していない可能性もあるが、MTX・5-FU併用による化学療法は少なくともある種の口腔扁平上皮癌には有効であることが推察された。臨床的にはMTX・5-FU時間差少量併用投与を術前化学療法として施行し、奏効率76.9%、down-staging率63.3%、病理組織学的著効率40%、5年累積生存率75.0%を得ることができた。以上のようにMF療法は口腔癌の治療に有用であると思われた。
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