顎口腔領域における化膿性炎の発生に嫌気性菌が関与することは広く知られている。化膿性炎の治療では起因菌に対する適切な化学療法剤の選択が重要であり、そのためには迅速な起因菌の同定が必要である。しかし臨床材料からの嫌気性菌の分離・同定および薬剤感受性試験には少なくとも1〜2週間を必要とする。また嫌気性菌とくにグラム陰性桿菌の中には薬剤感受性に特徴を持ち、多くの抗生剤に対し耐性を示すものがあると報告されている。近年、臨床材料中の嫌気性菌の代謝物である揮発性脂肪酸と難揮発性脂肪酸をガスクロマトグラフで直接分析する迅速診断法が開発され注目されている。そこで顎口腔領域化膿性炎における膿汁の直接ガスクロマトグラフ分析による嫌気性菌の迅速診断法について詳細に検討すべく、顎口腔領域化膿性炎患者100人の膿汁から嫌気性菌の分離同定と直接ガスクロマトグラフ分析を行って比較検討した。その結果、膿汁の直接ガスクロマトグラフ分析所見と分離同定された嫌気性菌の培地のガスクロマトグラフ分析結果の総和とは比較的一致し、本診断法が臨床材料中の嫌気性菌の有無と菌種推定にきわめて有効であると思われた。この結果については第33回日本口腔外科学会(昭和63年9月名古屋)において発表した。また検出された嫌気性菌79株について薬剤感受性試験を行った結果、かなりの頻度で薬剤耐性を示し、とくにBacteroidesなどのグラム陰性桿菌においてその傾向が強かった。各種抗生剤のうち、CMZ、MINOが比較的高い有効率を示した。この結果については東京歯科大学学会(平成元年3月千葉)において発表した。さらに今後、保存したこれらの嫌気性菌をラットに接種し、膿瘍形成後、膿汁の直接ガスクロマトグラフ分析を行い、これまでの結果と比較検討する予定である。
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