巨舌を伴う不正咬合の矯正治療で安定した治療結果を得るためには、その要因として舌を固有口腔と調整のとれた大きさにまで形態修正することが必要である。前年は顎骨成長のピ-クを過ぎた症例につき舌縮小術によって生じた歯牙歯槽性の咬合変化を舌機能運動等の変化を対比して短期間の経過研究を報告した。本年は巨舌を伴う成長期の開咬を示す骨格性下顎前突例に施した舌縮小術と矯正治療の併用が顎発育の抑制や歯列改善にもたらす効果を舌機能運動変化とともに5年間の長期経過を研究した。舌縮小術は前年と同様Becker法によった。舌切除量は約3.5cm^3であった。治療は、舌縮小術の影響のみが関わる8y〜8y2mをI期、下顎発育抑制の目的でchin capを加えた8y2m〜9y7mのII期、これに舌突出防止用to-ngue cribを加えた8y7m〜9y2mをII-T・C期、その後multibracketで歯列の仕上げをした11y6m〜13y0mのIII期に分け、舌、咬合、顎骨にみられた機能的・形態的変化を追った。I期では舌体積の減少により安静位舌尖は約7mm後退し、口腔外に溢出していた舌は固有口腔内に収った。X線動画像所見で発音、嚥下、前口腔閉鎖等の機能がよの正常に近づいた。このため上顎前歯挺出、下顎前歯舌側傾斜など歯牙歯槽性の変化が2ヶ月間で著明に生じた。II期では舌機能運動は未だ完全に正常化していなかったが、chin capと舌縮小術の相乗効果で歯牙歯槽性改善と共に著明な上下顎間関係の改善を得た。II-T・C期ではcribの影響が加わり総合的な口腔内機能環境の変化によって上顎前歯の自律的唇側移動が生じた。III期は残余の不正を機械的歯牙移動で仕上げをしたが、その結果安静位静止像上では適切な体積に形態修正された舌が固有口腔に適応し、X線動画像では舌機能運動はほぼ正常化していることが認められた。またこの時点で舌縮小術と矯正治療の併用による治療結果に咀嚼、発語明瞭度への影響は認められなかった。
|