歯周組織の力学的な性状を知ることは、歯科における診断、治療方針の決定、治療操作の選択に重要な意味を持つ。特に歯科矯正学の分野では矯正力に対する歯周組織の反応とそれに伴う性状の変化を把握することは極めて重要である。本研究は、歯周組織の機械インピーダンスを計測し、それを指標として歯周組織の物理的な特性を同定しようとするものである。機械インピーダンスは工業分野で広く用いられている振動試験法の一つであり、試験体に任意の振動を加え、それに対する応答を測定し、その物理的な特性を知るために行われるものである。現在、本実験システムを使用して下記のよな実験及びデータ収集、解析を行い検討を加えている。 1.従来の測定装置を改良して、矯正治療に伴う歯周組織の性状変化をチェアーサイドで測定できるように振動子先端の形状、測定器配置、等々につき新しい考察と工夫を加えた。 2.本測定装置を使用して正常歯と矯正治療中の歯の機械インピーダンスを経時的に数症例測定し現在も継続している。 3.これらの資料の分析法につき種々の検討を加えたが、本年これら数症例より得た個々の歯の機械インピーダンス(モビリティー)からNoyesらが提案した歯及び歯周組織の力学モデルの5個のパラメーターを算出した結果以下のような傾向が観察された。 (1)正常歯について:モビリティーに経日変化、日内変化が認められる。測定時の接触圧によってモビリティーは影響を受ける。 (2)矯正治療中の歯について:上記の変動を考慮にいれた上で、正常歯の値と比較検討すると矯正的歯牙移動にともなって、各パラメーター値は低下する傾向が認められる。 この変化傾向の定量的評価によって歯の動揺度のより客観的な把握が可能と考えられるので、今後、資料数を増加し、さらに分析を進める。
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