矯正的な歯の移動を行う際には、移動される歯の歯周組織の状態を推定し、さらに歯の移動に伴って経時的に組織の性状がどのように変化していくのかを知って、与える矯正力を適正に決定するための指標を得ることが重要である。この目的のために我々は、機械インピ-ダンス測定法を応用した歯周組織の粘弾性特性測定装置を用いて、矯正的な歯の移動に伴う歯周組織の変化を生体に対し非侵襲的にとらえるための検討を行っている。本年度は前年度までの検討結果をふまえて、成人例を被験対象として、より臨床的な研究を行った。 1.正常な歯周組織を持つ歯および矯正治療中の歯を被験対象とした、歯周組織の粘弾性特性測定装置の測定の再現性の検討。 2.正常な被験歯の歯周組織の粘弾性特性の日内変動、経日変動について。 3.矯正的な歯の移動に伴う歯周組織の粘弾性特性の変化と歯の移動様相について。 測定の再現性は、変動係数でほぼ5%以下であり良好であると考えられた。また正常歯の日内変動は変動係数が7%以下、経日変動では9%以下であった。矯正的な歯の移動と歯周組織の粘弾性特性の変化については、歯の移動初期4週間では、歯の移動に伴う組織の反応は、臨床上正常歯と判断された同名歯であってもそれぞれ歯によって異なることが明らかに認められた。また矯正的な歯の移動中、歯周組織の粘弾性特性の一時的な上昇(ピ-ク)が歯の移動の停滞期間の開始時期に一致して出現することが認められ、その関連性が強く示唆された。 以上本研究の一連の結果は、矯正的な歯の移動に伴う歯周期組織の粘弾性特性の変化を検討することによって、当該歯周組織の性状を推測するための臨床上有効な指標が得られる可能性を示した。
|