前年度の研究では、口腔内情報抽出行動には、経験的な熟練性が大きく関与していることが示唆された。今年は、学部教育終了者と学部教育未経験者が矯正学的専門知識を必要とする側面頭部X線規格写真を観察する際の視覚情報探索行動について検討した。 [被験者]学部教育終了者群:専門課程4年生30名、学部教育未経験者群:進学課程1年生30名 [実験装置]ビジコンアイカメラを応用した注視点解析システム [実験1]上顎前突、開咬、反対咬合および正常な骨格形態を呈する側面頭部X線規格写真4枚を順にそれぞれ30秒間被験者に呈示し、眼球運動を各々1回記録した。0.2秒以上の停留点を注視点とし、部位別注視点数、跳躍性眼球運動数、注視点連絡数について両群で比較した。 [実験2]眼球運動記録後、実験1で呈示した症例に関して、探索部位について内省報告を実施した。 [実験3]実験1で用いた4症例の顏面写真を呈示し、それぞれに対応する頭部X線規格写真の選択を指示した。 [結果]実験1において学部教育未験者は前歯部のみを探索していたのに対し、学部教育終了者群は、頭部X線規格写真分析に必要な特徴部位を含むより広い領域を探索していた。実験2では、学部教育終了者群において実験1の結果から得た探索部位と内省報告の結果が一致していた。実験3での正答率は、学部教育終了者群では90%、学部教育未験者群では30%であった。 [結論]専門知識をもつ被験者は、頭部X線規格写真分析に必要な特徴部位を的確に探索しており、症例の特徴をよく把握していた。
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