題記標的化合物3-β-D-リボフラノシルワイブチン(1)の塩基部のキラル合成はWittig反応及びHeck反応を鍵とする2方法によって達成していたので、この両方による1の合成を試みた。前者はヌクレオシドレベルでは全く目的物を与えず、ホスホニウム塩を塩化物から分子内塩にしたり、窒素上の置換基を改変することを試みたけれども、いずれも目的を果たせなかった。後者の反応に必要な3環性ヌクレオシドのハロゲン化体は対応する未置換体を炭酸水素ナトリウム存在下ヨウ素で処理するという簡単な方法で収率よく得ることができた。一方、オレフィン要素として平なビニルグリシン誘導体は文献記載の方法では光学的に純粋な原料を得ることが難しく、加水分解酵素を用いることによって効率的な合成法を実現した。これらを原料として用いるHeck反応は円滑に進行し、接触還元、メチル化に引き続く脱保護を経て1の最初の合成を実現することができたかに思えた。しかし、ながら、ここに得られた1はそのジアステレオマ-との混合物であることが判明したので、タイプの異なるビニルグリシン誘導体を用いるHeck反応や、反応機構的に立体異性化を伴わないと考えられる他の炭素炭素間結合形成反応などを試みたが、いずれもよい結果を与えなかった。そこで、1をそのジアステレオマ-から分離することに本格的に取り組んだ結果、最終的には1の合成中間体の段階で逆相系の高速液体クロマトグラフィ-を用いて分離することに成功した。かくして得られた1のグリコシル結合の加水分解速度は、酵母フェニルアラニン転移リボ核酸から単離されたワイブトシンの加水分解速度と同程度であった。化合物1のトリアセチル体はそのジアステレオマ-と高速液体クロマトグラフィ-などによって明瞭に区別することができるので、ワイブトシンの単離同定は安定なトリアセチル体で行なうのが得策である。この線に添った作業を鋭意続行中である。
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