イネの根の生体膜にムギネ酸一鉄錯体の構造を厳格に認識できる透過機構が存在することを確認する目的でエンバク由来の植物シデロホアであるアべニン酸(L体)とそのエナンチオマ-(D体)の合成を試み、はじめてその合成に成功した。これらの合成シデロホアにつき、^<59>Feを用いてイネの鉄取り込み活性を比較したところ、両者供互いに鏡像体である以外は同じ性質の錯体を形成するにも拘らず、D体は天然のL体に比べて著しく低い鉄取り込み活性しか示さなかった。従って、イネの根には植物のシデロホアの分子構造を厳格に忍識する機能が備わっており、鉄欠乏時には、根からのムギネ酸の分泌と同時に、レセプタ-タンパクが根の膜に動員されることによって、鉄の選択的取り込みが行なわれていることが強く示唆された。 大麦を鉄欠乏状態と正常状態とで水耕栽培し、鉄欠乏で誘導されるタンパク質の検索を行なった。膜タンパク質画分と可溶性タンパク質画分において二、三のタンパク質に量的違いが認められた。これらの鉄欠乏に敏感なタンパク質はレセプタ-タンパクやムギネ酸合成酵素など、鉄取り込みの調節に関連があるタンパク質の可能性が考えられる。 ムギネ酸合成遺伝子を制御するリプレッサ-の性質として、Fe^<2+>に対する親和性が考えられる。そこで、Cu^<2+>固定化カラムを調製して、アフイニテイクロマトグラフィ-を行ない、大麦中のCu^<2+>に親和性を有するタンパク質、約30種の存在を確認した。これらのタンパク質は、分子表面にヒスチジンなどの塩基性アミノ酸残基をもつと推定され、Fe^<2+>との親和性を有するものも少なくないと思われる。 本研究により得られた基礎的デ-タをもとに、植物の鉄取り込みとその調節機構に関しての遺伝子且つ分子レベルでの理解が飛躍的に進むことを期待したい。
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