研究概要 |
リノ-ル酸やα-リノレン酸等のシス型多価不飽和脂肪酸は、ADP等の刺激に伴なって生じる細胞内Ca^<2+>濃度上昇を抑制することによって血小板の凝集を阻害する。昭和63年度の研究結果より、シス型多価不飽和脂肪酸は凝集阻害作用と呼応して、テオフィリンの存在下でサイクリックAMPの濃度を増加させることがわかった。サイクリックAMPを産生する酵素アデニル酸シクラ-ゼは膜の流動性に鋭敏な酵素であると考えられているが、サイクリックAMP濃度を増加させる濃度範囲でシス型多型不飽和脂肪酸は血小板膜の流動性を有意に増大させることがわかった。そこで平成元年度はまず他の細胞内Ca^<2+>調節物質の産生に及ぼすシス型多価不飽和脂肪酸の影響について検討した。細胞内Ca^<2+>貯蔵庫よりCa^<2+>の遊離を生じる物質として知らせるイノシト-ルりん脂質代謝物のイノシト-ル-1,4,5-三りん酸(P_3)の産生は、血小板活性化因子(PAF)の添加によって約3倍に増大したが、この産生増大に対してα-リノレン酸等のシス型多価不飽和脂肪酸は影響を及ぼさなかった。さらに、これらの脂肪酸の血小板に対する作用はアラキドン酸代謝の修飾にはよらないことも結論された。以上の結果、シス型多価不飽和脂肪酸による血小板機能阻害は、膜の流動性の増大に伴なうアデニル酸シクラ-ゼ活性化によって生じていることが明らかになった。一方、血小板を活性化するアラキドン酸が高濃度では逆に凝集を抑制する作用を示すことやトランス型多価不飽和脂肪酸による凝集阻害作用が報告されている。蛍光プロ-ブによる観察結果は、アラキドン酸もこの濃度範囲では宥意な膜流動性の増加を生じること、トランス型多価不飽和脂肪酸もりん脂質膜の相転移温度を低下させる作用があることを示しており、これらの脂肪酸も上述のシス型多価不飽和脂肪酸と同様な機構で作用発現していることが推察された。
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