研究概要 |
ポリアミン親和性蛋白の一つであるスペルミジン合成酵素をモデル蛋白として取り上げ、その基質であるプトレシンの結合部位構造および結合状態を、多くのプトレシン関連化合物の阻害性、基質性から具象化することができた。すなわち、シクロヘキシルアミン(CH)がプトレシンと拮抗すること、およびこのようなシクロアルカン化合物が自由度の高いプトレシン鎖を一部固定化したモデルになり得ること、を手掛りとして、一連のシクロアルカン環を有する化合物につき主に検討してきた。その結果、trans-4ーメチルシクロヘキシルアミン(4ーMCH)がCHよりはるかに強く酵素活性を阻害した。また、シクロペンチルアミン、シクロヘプチルアミンも可成り強く阻害し、さらにexo-2ーアミノノルボルナンのような立体構造が固定され、比較的ふくらみを持つ化合物がCHより強く酵素活性を阻害した。これらの結果と阻害性の発現にアミノ基の存在が必須であることとを考え合わせて、プトレシン結合部位には、アンモニウム基を静電的に結合する陰電荷があり、その近辺には可成り広い疎水空間が形成されていると考えられた。なお、nーブチルアミンのような単純なアルキルアミンがCHより強い阻害性を示したことも、この推定構造から理解することができた。一方、基質性の実験結果でtrans-1,4ージアミノシクロヘキサンが本酵素の基質になり得ることから、上記4ーMCHのメチル基導入によるCH阻害の約5倍上昇とを考え合わせて、活性部位におけるプトレシンのコンホメーションがCHの1,4の方向に伸びた形であることが推定された。また、アミノプロピル基を受容するプトレシンの一方のアミノ基は、4ーMCHのメチル基が位置する疎水空間に、恐らく遊離型として存在するものと思われる。以上のモデルはスペルミン合成酵素の活性部位構造を推定するためにも有用であり、それに基づきスペルミン合成酵素に対する新規阻害剤のデザインが可能になった。
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