生体内にあって生命維持に重要な働きをしているCu(II)、Fe(II)、Fe(III)、バナジルイオン(VO^<2+>)およびそれらの錯体と過酸化水素(H_2O_2)の反応による活性酸素種、ヒドロキシルラジカル(・OH)の生成についてスピントラップ試薬、3、5-ジブロモ-4-ニトロソベンゼンスルホネート(DBNBS)、5、5-ジメチル-1-ピロリンN-オキシド(DMPO)およびα-(4-ピリジル-1-オキシド)-N-t-ブチルニトロン(POBN)を用いESRで検討した。その結果Cu(II)イオンおよびそのエチレンジアミン(en)錯体ではH_2O_2と反応し、OHラジカルを生成した。これに対し、EDTAなどのポリアミノポリカルボン酸を配位子としたCu(II)錯体はH_2O_2とはまったく反応しなかった。この系に還元剤であるアスコルビン酸(AH_2)を共存させると、Cu(II)がCu(I)に還元され、次いで還元されたCu(I)がH_2O_2とFenton型の反応によりOHラジカルを生じることが明らかになった。この結果は、Cu(II)イオンの酸化還元電位が配位子によって大きく変化したことを示している。一方、Fe(III)-EDTA錯体は還元剤が存在しなくてもH_2O_2と反応し、OHラジカルを生成した。Fe(II)-EDTA錯体はH_2O_2とFenton反応により高収率でOHラジカルを生じた。したがって、Feイオンの場合にはEDTAの配位によってもそれ程酸化還元電位は変化しないことが推測される。VO^<2+>イオンとH_2O_2の反応でも反応初期にFenton型の反応によりOHラジカルの生成することが明らかになった。しかし、EDTA錯体はCu(II)錯体と同様まったくH_2O_2とは反応しなかった。この結果は、VO^<2+>イオンもEDTAと錯体を形成することにより酸化還元電位が変化し、H_2O_2を還元できなくなったものと推定される。 以上のことから、生体内にあって有用な金属イオンでも、細胞内でH_2O_2と共存した時には、生体に極めて有害な活性酸素種、ヒドロキシルラジカルを生ずる可能性のあることを示唆している。
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