研究概要 |
我々はすでに、正常な組織や細胞に存在するものとは性質の異なる5′-ヌクレオチドホスホジエステラ-ゼが多くの種類の癌細胞に出現していることを見出している。本年度は、この酵素の性状をさらに詳しく明らかにする目的で、エ-ルリッヒ腹水癌細胞から硫安分画後、順次、ブチルトヨパ-ル、DEAEトヨバ-ル、ブル-トヨパ-ル、ヒドロキシアパタイトなどのカラムにかけ、最終的にSDS-PAGE上で単一バンドにまで精製することに成功した。ホモジュネ-トからの精製度は15,900倍であり、収率は3.8%であった。この酵素は可溶画分に存在し、至適pHは7.5、SDS-PAGEの結果から測定した分子量は67,000であり、これらはいずれも従来の膜局在酵素とは異なっていた。この酵素の基質特異性を5′-ヌクレオチドホスホジエステラ-ゼの基質として知られているものについて調べた。その結果、ATP,CTP,GTP,TTP,UTP,NAD,NADH,NADP,Ap_4A,bis(p-nitrophenyl)phosphate,およびp-nitrophenyl phenylphosphateは基質とはならず、また、環状ヌクレオチドやthymidine3′-monophosphate p-nitrophenylester,p-nitrophenylphosphateも分解されなかった。これらのことから、この酵素は、nucleotide pyrophosphatase,cyclic nucleotide phosphodiesterase,3′-nucleotide phosphodiesterase,phosphataseなどの活性を持たないことが分かった。一方、この酵素は、酵素の精製に用いた基質であるTMP-NPよりもApA,ApC,ApU,CpA,GpA,UpAをよく分解してその5′-monophosphateを精製し、ApC以外はすべて2′,5′結合のほうが3′,5′結合より良い基質であることが分かり、この点でも多くのホスホジエステラ-ゼと異なっていた。
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