研究概要 |
我々は、細胞膜上に存在すると考えられている5'ーNPDaseとは異なった5'ーNPDaseがマウス白血病細胞L5178Yに存在することを発見した。そこでこの酵素に関して詳しく研究した。この酵素は、調べたほかの癌細胞15種類のうち14種類に存在し、調べた正常細胞3種類すべて見られなかったことから、癌細胞に特異的に発現する5'ーNPDaseと考えられる。そして今まで知られていた正常細胞の細胞膜に存在する5'ーNPDaseとは違った新しいものであることがいろいろな点から明らかになった。即ち、正常細胞タイプのものは、細胞膜上に存在し、分子量は10.7〜14.8万、至適PHは9付近であり、SH剤であるジチオスレイト-ル(DTT)により阻害されるのに対して、癌細胞タイプのものは、細胞質に存在し、分子量6.7万、至適PHは7.5、そしてDTTによって促進されるというものである。基質特異性を調べたところ、正常細胞タイプが切るようないろいろなヌクレオチドのpyrophosphate bondをこの酵素は切らないが、dinucleotideのうち、2'ー5'結合を3'ー5'結合より効率良く切って5'ーmono phosphateを生成することが分かった。2'ー5'結合をよく切る酵素として、2',5'ーphosphodiesteraseが知られている。この酵素はインタ-フェロンによって細胞内に誘導される2',5'ーoligoadenylateを分解するのに必要と考えられている。はたして我々が見いだした癌細胞特有の5'ーNPDaseが2',5'ーoligoadenylateを分解するかどうかは分からない。実際にこの5'ーNPDaseの生理的役割あるいは生理的な基質が何であるかはこれからの問題である。癌細胞に特有なこの酵素が癌の診断に役立つか否かは興味ある問題である。そのためにはこの酵素に対するモノクロ-ナル抗体をとることが必要であるが、現在までのところまだ成功していない。我々の研究室では、すでにいくつかのほかのものに対するモノクロ-ナル抗体をとることに成功しているので、いずれ目的のモノクロ-ナル抗体が得られるものと考えている。
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