昨年度ホスホリパ-ゼC(PLC)と親和性を有しPLC活性を増強する作用をもつ低分子量GTP結合蛋白(G21K)の精製に成功するとともに、マイト-ゲン刺激リンパ球では受容体刺激に伴い、G21Kと性質の類似した低分子量GTP結合蛋白(G蛋白)の一部が細胞膜から細胞質へ移行することを発見した。本年度は、胸腺リンパ球における受容体刺激に伴うG蛋白を介したPLCの活性化の機作について、低分子量G蛋白を中心に解析を進め、次のような成果を得た。(1)マイト-ゲン(本研究ではコンカナバリンAを用いた)受容体と親和性を有するG蛋白を発見し、これがGiであることを百日咳毒素によりADP-リボシル化をうけることおよび抗Gi抗体と交差反応性を示すことから確認した。(2)胸腺リンパ球の膜画分を化学的な架橋剤で処理後可溶化した膜蛋白画分に含まれるマイト-ゲン受容体画分には、Giのみでなく低分子量G蛋白も存在することを見出した。(3)この低分子量G蛋白画分にはPLCを増強する効果の存在することが確認された。(4)胸腺リンパ球をイソプロテレノ-ルやPGE_1で処理すると細胞内cAMP濃度が上昇するが、この作用はマイト-ゲンで抑制されることが判明した。(5)cAMPは胸腺リンパ球のイノシト-ルリン脂質代謝を抑制することを見出した。これらの結果を考え合わせると受容体刺激に伴うPLC活性化には、少なくとも2種類のG蛋白が関与していることが推測された。すなわち、マイト-ゲン受容体に対して弱い親和性を有する(あるいは相互作用が可能な近傍に存在する)低分子量G蛋白が存在し、これは受容体刺激によりその一部が細胞膜から細胞質へ移行して細胞質PLCおよび細胞膜の内側に存在する膜結合性PLCを活性化する。一方受容体とGiの相互作用により細胞内でのcAMP濃度上昇は抑制されPI代謝の亢進が阻害されない機構として働く。低分子量G蛋白の細胞レベルでのPLC活性化への関連性については、さらに検討中である。
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