発がんプロモ-タ-により遅れて誘導される遺伝子の分離、発現のシグナルおよび分離した遺伝子の機能に関する研究を行なった。 マウス骨芽細胞MC3T3をTPAで4時間処理し、mRNAからCDNAライブラリ-を作製した。差引ハイブリダイズ法によりスクリ-ニングし、TPA処理後4〜8時間で発現が最大となるCDNAクロ-ン8個が分離された。塩基配列からこのうち3個はメタロチオネイン、1個はオステオポンチン、他の4個は互いに独立の未知の遺伝子であった。これらの遺伝子はいずれもTPA以外に上皮増殖因子EGFによっても誘導されたが血清では誘導されなかった。またTPAによる誘導はCキナ-ゼ阻害剤で抑制された。分離した未知の遺伝子の一つ(OTS-8)に関し、CDNAの全塩基配列を決定した結果、26kDaの蛋白をコ-ドすることが予想され、in vitroの翻訳系を用いて確認された。OTS-8遺伝子は、マウス各臓器の中でも肺でのみ強い発現が見られたが、TPA刺激によりmc3T3細胞以外にBalb/3T3、マウス皮膚でも誘導された。この誘導は新たなタンパク質合成阻害剤を必要とした。 次に、TPAにより初期に発現される転写因子c-fosと上の遺伝子発現との相関を解析するため、c-fos遺伝子をメタロチオネイン転写エンハンサ-に結合した発現ベクタ-を作製し、NiH/3T3細胞に導入した。重金属によりc-fosが誘導される細胞クロ-ンを分離し、c-fosを発現した時のOTSー8遺伝子発現を検討したが変化は見られず、この遺伝子の発現にはc-fos以外のシグナルが必要と考えられた。 MC3T3をV-rasで形質転換した細胞では、オステオポンチン(OTS-5)、OTS-8遺伝子がいずれも構成的に発現しており、TPAとrasとは共通のシグナルを細胞の遺伝子に与えていることになる。今後、これら遺伝子の転写制御領域を明らかにし、発癌過程の分子機構を解明したい。
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