抗生物質、合成品ならびに植物成分を対照として起源の異なる2種類のレトロウイルス[エイズウイルス(HIV)およびトリ骨随芽球症ウイルス(AMV)]逆転写酵素に対する阻害剤の探索を行なった。合成キシン誘導体やストレプトニングリンはAMV、HIV両ウイルス由来の換転写酵素を強力に阻害したが、ストレプトニングリンのエステル誘導体はHIVの逆転写酵素に阻害活性を示す抗生物質の中にはHIV由来のものには不活性のものもみられ、両酵素間の阻害剤に対する感受性面での差異をみいだした。ストレプトニグリンは他の前核、真核細胞の核酸合成酵素に比べて逆転写酵素に高い特異性を示すが、細胞毒性も強く抗ウイルス剤としては不適当であった。ストレプトニグリンは4つの6員環より構成され、このうちキノリンキノン骨格が酵素阻害に必須であることから、100種類以上のキノン誘導体を合成し、AMV逆転写酵素阻害活性とマウスリンパ腫瘍L5178Y細胞に対する細胞毒性を検討した。一般に、オルトキノリンキノン誘導体はパラキノリンキノン誘導体に比べて高い逆転写酵素阻害活性を示した。さらに、オルトキノリンキノン誘導体はパラキノリンキノン誘導体よりも毒性が低く、逆転写酵素に対する選択性の点で後者より優れていることが判明した。前述のごとくキノン誘導体はAMV、HIV両酵素を共に阻害することから、エイズ化学療法剤への応用を検討している。欧米では逆転写酵素阻害活性を有するヘテロポリオキソメタレ-トの1種HPA-23が既に臨床試験に用いられている。そこで、一連のヘテロポリオキソメタレ-トのin vitroでの抗HIV活性について検討し、K_7[PTi_2W_<10>O_<40>]・6H_2O(PM-19)など、いわゆるケギン構造をとるヘテロポリオキソタングステ-トに高い活性を認めた。これら無機酸複合体は逆転写酵素の阻害というよりはウイルスの細胞への吸着阻害を作用機転としていることをみいだした。
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