研究概要 |
私達は、既に血管標張反応が加齢により減弱することを報告したが(Moritoki et al.,1986)、原因として血管内皮細胞機能が低下してcGMPの生産量が減少する結果であることをつきとめた(Moritoki et al.,1988)。しかし老化による血管拡張反応の減弱の原因は単一ではない、受容体から拡張に至るいくつかのステップに対する加齢の影響を検討し、次のような結果を得た。 週齢がすすむにつれて、血管内径細胞低下による内皮依存性拡張因子(EDRF)の産生・遊離の減少、guanylate cyclase活性の低下、cGMP分解酵素phosphodiesteraseの活性の増大がおこっていることが判明した。特に[^3H]-NECAに対する結合実験によりadenosineの受容体機能(受容体数、親和性)と加齢の関連をしらべた結果、adenosineに対する血管の拡張反応の減弱はA2-receptorの総数が減少したためであることも示唆された。また、血管内腔潅流液(acetylcholine,histamine,ATPあるいはadenosineを含む)の抗血小板活性を測定したところ、老化血管では血小板凝集阻害活性を有する物質(多分prostacyclinとEDRF)の血管内皮での産生・放出が減少するため血小板が凝集しやすい状態になっていることが明らかになった。 さらに、血管に対するVitamine Eの薬理効果についても予試験的ではあるが探りをいれ、加齢による血管の機能(拡張反応とcGMPの産生能)の低下をVitamine Eがある程度防止し、かつ、血漿中の脂質過酸化物の含量を低下させていたこともほぼ把握できた。 以上、加齢に伴う血管の機能低下を防止するには、老化の機構の解明が先決であるとの観点から研究を進め、僅かながら手がかりを得た。血管の早期老化をいかにして防止・軽減できるかという視点からの研究、特に内皮機能の賦活、EDRFの産生能を活性化する手段の検索は今後の課題である。
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