著者は20β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(20β-HSD)を幼著なブタ精巣に多量に見い出したわけであるが、本酵素の諸性質を明らかにする目的で10日令のブタ精巣を原料として細胞分画し、サイトソールより各種カラムクロマトグラフィーを行ない本酵素を電気泳動的に均一な成分として純化することができた。本酵素は分子量30、500、等電点5.2の糖を含まないタンパク質で、そのアミノ酸組成においてAsp、Gluの他にPro、Gly、Val、Leuの疎水性アミノ酸が比較的多く認められた。また本酵素は17αーhydroxyprogesterone(Km=9.4μM)を最も基質として20β-ヒドロキシ体に還元することができるが、その他、progesterone(Km=1.5μM)、pregnenolene(Km=4.0μM)、deoxycorticosterone(Km=8.6μM)およびdeoxycortisolも基質とした。本酵素は補酵素としてβ-NADPH(Km=1.7μM)を最も要求するがβ-NADH(Lm=1.0mM)も比較的高濃度で補酵素と成り得た。またその還元反応の際、β-NADPHの4-pro-Sの水素を立体選択的に利用した。本酵素に対する各種阻害薬を検討した結果spilonolactone(Ki=11.2μM)、SU8000(Ki=22.3μM)およびcyanoketone(Ki=42.8μM)などにより比較的強い競合的阻害を受けることが明らかになった。次に本酵素の生理学的な意義を明らかにする一端として本酵素による反応生成物の精巣チトクロームP-450(17α-ヒデロキシラーゼ/リアーゼ)に対する影響を検討した。その結果、20β-hydoroxypregn-4en-3-oneおよび3β、20β-dihydroxypregn-5-eneは17α-ヒドロキシラーゼ/リアーゼ活性を強力に阻害することを明らかにした。さらにこの20β-ヒドロキシ体は直接P-450に相互作用することにより、特徴的な誘導差スペクトルを与えることなどから20β-HSDの反応生成物はC_<19>-ステロイドからC_<21>-ステロイドの生合成に対して抑制的に働いていると考えられた。
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