モルヒネ受容体の機能発現機構を解明する研究の一環として、モルヒネ受容体のリン酸化反応と機能発現の関係を中心に研究を進めた。 マウス脳から調整したP_2膜にモルヒネ、または〔D-Ala^2、D-Leu^2〕エンケファリンアミドを作用させると、分子量58kDaのタンパクのリン酸化が特異的に促進されることが明らかとなった。リン酸化の50%促進効果を示すモルヒネ濃度は1×10^<-8>Mであった。このタンパクは次の1)〜5)の理由から、モルヒネ受容体のうちのミュー(μ)受容体であると結論した。 1)^<125>I-β-エンドルフィンとμ受容体をDSSを用いて架橋すると、58kDaのタンパクが架橋される。 2)我々のこれまでの研究を含め、いくつかの研究結果から、μ受容体の分子量は58kDaであると推定されている。 3)μ受容体は糖タンパク質であり、WGAが結合することが報告されているが、リン酸化された58kDaタンパクはWGAカラムで精製することができる。 4)μ受容体の特異的アンタゴニストであるナロキソンは58kDaタンパクのリン酸化を阻害する。 5)モルフィノンアガロースを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって、リン酸化58kDaタンパクを単離することができる。 58kDaタンパクのどのアミノ酸にリン酸化が起こるかを検討した結果、大部分はセリン残基に起こっていることが明らかとなった。 以上の結果は、モルヒネ受容体のうち、μ受容体はそれ自体がタンパクリン酸化酵素であるか、または膜上でタンパクリン酸化酵素と連動しており、アゴニストのμ受容体への結合によって促進される受容体のリン酸化反応が機能発現に関与している可能性を示唆している。
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