動物細胞における表面膜透過性のATPによる調節機構およびこの作用を利用した新しいがん化学療法の開発研究を引続き行った。特に本年度は、このATPによる透過性変化のがん細胞に対する特異性に着目し、ATP作用を利用した新しいがん化学療法の開発研究を中心に行い、以下の知見を得た。 ATP作用のがん化学療法への応用性について、腹水中にエ-ルリヒ癌細胞を移植された担癌マウスの延命効果を指標として、昨年に引続き興和(株)東京研究所と共同研究を行った。その結果、制ガン剤の5ーFUによる腹水癌マウスの延命作用が、ATPの併用により増強され、平均生存日数は未処置の約3倍にまで達した。ATPの併用効果はアドリアマイシンを制ガン剤として用いた場合にも認められた。しかし、ATP単独投与では、延命効果も毒性も示さずATPは抗癌剤の作用を増強していると考えられた。このようなATP併用による抗癌剤の増強効果はエ-ルリヒ癌細胞をマウス背部皮下に移植して形成させた固形癌に対しても有効であり、5ーFUまたはアドリアマイシンの単独処理に対して、移植2週間後の癌組織重量はATP併用群では約1/2にまで減少し、未処置群に対しては約1/5まで低下した。同様の増強効果は、B16メラノ-マ細胞を移植した固形癌についても認められた。以上の結果、ATP併用による抗癌剤の増強作用が生育部位の異なる種々の癌細胞に対して有効であり、また5ーFUやアドリアマイシンといった構造・作用点の異なる抗癌剤に対してほぼ同程度に有効性を示したことより、本法はがん化学療法として極めて応用性の高いことが判明した。今後は、更に有効な投与条件、がんや併用する抗癌剤の種類等の検討、および調節機構の解明を行う必要がある。また、ATP受容体の同定も引き続き試みたが、明らかにするには至らなかった。今後の課題である。
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