研究概要 |
目的 四肢の病的振戦はもとより,生理的振戦であっても筋疲労時には振幅が増大し,円滑な日常動作を妨げる。機械的ダンパ-などの外部機構を付加することにより,振動振幅を減弱する試みがなされているが,振戦の発生機序が確定していないため,その数量的解析方法は不明である。筆者らは,先に,制御工学的な立場から,力学系,脊髄反射系の外に,上位中枢反射系を含む新しい生理的振戦のモデル(2反射ル-プ理論)を提案した。本研究はこれを実験的に裏づけるとともに,外部的振戦制御の基本設計に必要な理論解析の方法論の開発を目的とする。 強制振動法による実験的検討 2反射ル-プ理論を実験的に裏づけるために,前年度は,手首の機械的加振による手の強制振動応答を計測処理するシステムを開発した。本年度は,このシステムによる実験結果と,2反射ル-プモデルに基づく強制振動特性のシミュレ-ション結果との比較検討を行った。手首と手の加速度,および整流平滑筋電図と手の加速度のそれぞれのクロススペクトルの位相は,個人差も比較的小さく,試行毎の変動も少なかった。モデルのパラメ-タを適当に選ぶことによって,実験結果に類似する位相特性を得た。 複素角周波数解析による理論的検討 振戦制御の理論解析のために,ラプラス変換を行った運動方程式においてs=α+jωとおき,複素角周波数の解の挙動を調べることにより,振動傾向を推定する。複素角周波数の実数部に関して,α≧0なら自励振動,α<0なら減衰振動を示す。力学系やフィ-ドバック系の定数を変えた時のαとβの変化から,振動制御の効果を推定し,設計の基礎デ-タとすることができる。例題として,2つの反射系のゲインが変化した場合について解析し,上位中枢反射ゲインの増加により,αも増加傾向を示し,振動振幅の増加をもたらすことが推定された。
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