妊娠14日(腟栓日=0日)のウィスター系ラット胎仔の前肢芽においては、間葉凝集が見られ指骨原基の形成が始まっているが、軟骨や骨組織はまだ分化していない。この時期の胎仔前肢芽を切り取り、細切してヌードマウスの皮下へ移植した。移植後1週間毎に移植片を摘出し、組織学的に検索した。移植片肉では、移植後1週間以内に軟骨が形成され、2週間以内に骨化が始まった。軟骨や骨の原基の多くは長骨の形態を示し、その中における軟骨細胞の増殖と肥大、骨化の組織像は、対応する発生段階のラット胎仔における像と類似していた。また、電顕的に観察した骨芽細胞や破骨細胞の形態も、生体内におけるそれらの所見と同様であった。移植後20日目までに、移植片内で骨髄組織が発生し、比較的整然とした骨梁が多数認められた。これらの所見から、ヌードマウスへ移植されたラット胎仔の四肢原基は、生体内に準ずる発育と組織分化を示すことが明らかになった。 次に、発生毒性検出系としての可能性を検討するため、ラット胎仔前肢芽を移植されたヌードマウスに、移植後7日目と9日目に、シクロホスファミド(10〜120mg/kg)を腹腔内投与、またはサリドマイド(30〜240mg/kg)を経口投与した。移植後20日目に移植片を摘出して検索したところ、シクロホスファミド投与群では、移植片の発育と組織分化が用量に応じて抑制されていた。一方、サリドマイド投与群では、移植片の発育・分化は溶媒投与対照群との間に有意の差が見られなかった。すなわち、これら2種類の催奇形物質に対して、移植されたラット四肢原基がin vivoにおけるラット胎仔とほぼ同様の感受性を示すことが明らかになり、本移植実験系の有用性が示唆された。 現在、更に多数の化学物質を用いて実験を継続すると共に、人工流産ヒト胎児の組織を移植し、その組織分化を検索している。
|