1978年稲葉らは、SLE患者血清中に沈降抗体を見出したが、この抗体によって認識される抗原は、抗対が検出された血清以外のすべての血清中に認められるので、正常ヒト血清蛋白の一つと考えられたが、入手可能な市販の抗血清のいずれを用いても同定出来なかったので、未発表の成分と考えて“博多抗原"と命名した。SLE患者で特異的に本抗原に対する抗体が産生されること、及びル-プス腎炎患者の腎糸球体に本抗原が沈着することは本抗原とSLEとの関連性を示唆しているが、さらに本抗原が急性肝炎で増加し、肝硬変症で著しく減少するなど、肝疾患との関連を示す知見も得られている。一方、本抗原の生理学的な役割については未だ不明であり、抗博多抗体を有する患者血清でも溶血活性が認められることから、補体系の蛋白でないこと、同様に抗博多抗体を有する患者の凝固能に著しい異常がないことから、凝固系の蛋白である可能性も少ないことなどが推定されている。我々は200Lのプ-ル血清から、等電点沈澱法、ハイドロキシルアパタイト、硫安分画法、ゲルろ過法、ペビコン電気泳動法、及びレクチンアフィニティ-カラムにより約8mgの博多抗原を得た。本抗原は分子量65万の新しいベ-タ2糖蛋白で、分子量3万5千のサブユニットの重合体であり、沈降速度定数は12.0で、280nmにおける吸光係数は11.7であった。アミノ酸分析の結果、グリシン含量が多くヒドロキシルプロリンを含むことから、分子内にコラ-ゲン様の構造を有するものと考えられた。糖含量はオルシノ-ル硫酸法で8%で、アミノ酸分析とレクチンに対する親和性から、その糖鎖構造はシアル酸を含まず、フコ-スを含む、高マンノ-ス型のアスパラギン結合型と推定された。健常者における本抗体の血中濃度は7-23mg/Lであった。次に、本精製抗原でBalb/cマウスを免疫して、本抗原に対するモノクロ-ナル抗体を得た。
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