1.目的 粥状動脈硬化症による種々の血管病変の克服が近年の我が国における国民的課題となっていることは多言を要せず、最近の人口の高齢化にともない、粥状硬化性解離性大動脈瘤などの外科的疾患も漸次増加しており、その予防および治療の研究の必要性が高まっている。 本研究は、多点電気化学的ずり応力測定法を用い、上述の動脈疾患がもたらす血流異常の三次元的構造をモデル実験によって実測検討し、病変の発症、進展様式、さらにはその予防、治療における流体力学的な問題点を明らかにし、もって、本疾患群の克服の一助とする目的で行った。 2.方法 本研究では、我々が既に開発した多点同時電気化学的壁ずり応力測定装置に装着する種々の動脈病変モデルを設計試作した。本年度とりあげたもは、(1)各種の断面積狭窄度を持つ軸対称性狭窄で、流路壁に対する滑らかさにおいて変化を持たせたもの、 (2)流路の直径の1/2、1/4、1/8など数種類の高さを持つ遍側性の狭窄(血管壁の一部膨隆)である。このモデルにおいて、主として定常の流れを用いて、壁ずり応力の空間的分布の詳細な測定を行った。 3.結果と展望 この方法で、狭窄の上・下流の流れや、異常血流による壁ずり応力の空間的分布などを精密に測定することができ、たかだか面積狭窄度数%の非対称狭窄によって、正常の2-3倍のずり応力が血管壁に加わることが分った。このような異常な力学的作用などについての定量的データに基づき、さらに詳しい3次元的な壁ずり応力分布の推定には数値流体力学的手法を併用することが必要であることが判明した。今後の展望として、モデル実験と数値実験の両者の方法による壁ずり応力分布の推定により、粥状動脈硬化症の発症・進展に対する血流の病態生理学意義を解明することができるものと考え、血流に対する、三次元非定常の数値流体力学シミュレーションの研究に着手している。
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