人類集団の遺伝学的研究は、これまで主に血液成分中の蛋白質を指標として行われてきたが、近年の核酸研究の急速な発展に伴いDNAレベルでの解析が可能になった。我々は既に24種類の制限酵素を用いて日本人約260検体のミトコンドリアDNA(mtDNA)を分析し、蛋白レベルの研究では予想されなかった日本人集団内の遺伝的多様性を明らかにし、系統解析によって日本人集団は明らかに異なった2つのクラスターより成り立つことを明らかにしてきた。本研究では、日本国内3地域(静岡、沖縄、青森)において収集した各々60検体の胎盤より、核DNAを精製した。さらに、各人種(白人、アフリカ黒人、アジア人、パブアニューギニア人)約30検体の胎盤より精製した核DNAを各種制限酵素で切断後、種々の染色体由来のDNAをプローブとして、サザンハイブリダイゼーション法によるRFLPを分析した。調べた各種プローブのうちpHs-49(c-H-ras)およびpAW101(D14S1)では、各人種によって特徴的な対立遺伝子に支配される切断型が検出された。これらのプローブを用いて上記の3地域より得た日本人180検体のDNAのRFLP分析を行った。このうちpHs-49での分析では特に多型性が著しく、TaqIでの反応では静岡で7種類、沖縄で8種類、青森で5種類の切断型が観察され、これらは5種類の対立遺伝子(断片サイズ:3.85kb、3.7kb、2.7kb、2.6kb、2.3kb)によって支配される多型現象と考えられる。またそれぞれの遺伝子頻度は日本の地理的に離れた3地域において、かなり類似していることが明らかとなり、ミトコンドリアDNA多型分析で得られた所見とは、様相を異にすることが示唆された。
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