個々の患者で、治療開始後に薬物の投与方法を合理的に決定するにはファ-マコキネティックスの手法が有用である。しかし、従来の方法で正確なパラメ-タを得るには血中薬物濃度の測定値の数を多く求める必要がある。ところが臨床では種々の理由で頻回で採血することは困難であるので、我々は少数のデ-タからでも血中濃度変化が予測できる方法を種々探索している。その一環として、本研究ではシングルポイント法とベイジアン法に着目し、リチウムおよびアミトリプチリンに適用してその有用性と限界を検討した。 リチウムにシングルポイント法を適用すると、投与開始後1週間目の最低血中リチウム濃度を約20%の誤差範囲で予測することができた。これは複雑な計算を要するベイジアン法による予測精度に匹敵するものであった。また、3名の患者で1〜6ヶ月に亘って検討したところ、いずれの予測法でも治療開始初期の予想性はきわめてよかったが、日数を経るにつれ、実測値が予測値より高くなり、リチウムクリアランスの低下が認められ、病状との関連が示唆された。 新たに確立したHPLC法で定量したアミノトリプチリンのデ-タに両予測法を適用すると、投与開始後3週間位までの予測性は誤差で20%程度であったが、リチウムよりバラツキは大きかった。当院の8名の患者デ-タからpopulation parameterを算出してベイジアン法により2ヶ月〜1年の長期服薬患者で検討したところ、誤差は約25%であった。しかし病状が不安定で他剤を種々併用しているときは予測性が悪かった。 以上のことから、シングルポイント法は薬物が適当であれば比較的短期間内の予測性がきわめてよく有用な方法と考えられた。また、ベイジアン法は計算手順がやや複雑ではあるが、現時点では広く使用できる最も信頼性の高い方法と考えられた。
|