薬物の吸収・分泌過程は、薬物生体内動態を支配する重要な因子である。我々は、細胞膜小胞系を用いて薬物輸送研究を進め、尿細管刷子縁膜のH^+/有機カチオン対向輸送(分泌)、尿細管及び小腸刷子縁膜のH^+/アミノ-β-ラクタム抗生物質共輸送(吸収)等の新知見を得た。本研究では、H^+と共役する薬物輸送系を中心にして、それらのエネルギ-共役・調節機構・薬物輸送キャリア-の構造と機能等を明確にし、イオン性薬物の吸収・分泌過程における能動輸送機構の解明を目的とした。 1.尿細管刷子縁膜のH^+/有機カチオン対向輸送系:H^+勾配非存在下でtetrathylammonium(TEA)取り込みに及ぼすpHの影響を調べたところ、初期取り込みはpH7付近で最大を示し、酸性領域ではK_mの上昇、アルカリ性領域ではVmaxの低下することが明らかになった。この輸送系の活性調節には、駆動力であるH^+勾配のみならず、膜内外のpHが密接に関連しており、中性pH領域が至適であると考えられた。 2.小腸刷子縁膜のH^+/β-ラクタム抗生物質共輸送:cephradine等のアミノ基とカルボキシル基を有する両性イオン型アミノ-β-ラクタム抗生物質はジペプチド輸送系を介して輸送され、これはH^+勾配を駆動力とする起電性の共輸送系であることが明らかになった。また、アミノ基を持たず2つのカルボキシル基を有する新規経口用cefiximeもジペプチド輸送系を介して輸送されることが示されたが、cephradineの場合とは至適pHが異なるなどの二種のジペプチド輸送系の存在を示唆する知見を得た。 3.膜蛋白修飾試薬で処理した膜小胞系による薬物輸送:ヒスチジン残基修飾試薬、チロシン残基修飾試薬、SH基修飾試薬、カルボキシル基修飾試薬を用いて検討した結果、H^+/有機カチオン対向輸送系ではヒスチジン残基とSH基、H^+/β-ラクタム抗生物質(ジペプチド)共輸送系では、ヒスチジン残基が各々輸送活性の調節に関与していることが判明した。
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