本研究は、糖尿病時における薬物の体内動態の変化の特性を明らかにし、有効かつ安全に薬物療法を行う上で基礎となる知見を得ることを目的としたものであり、以下の結論が得られた。 1.糖尿病時には薬物の消化管吸収が、薬物の吸収特性にかかわらず増大することが明らかとなった。 2.糖尿病時における薬物の消化管吸収増大の原因は、小腸粘膜表面積の増大、小腸粘膜の透過性の上昇および能動輸送のキャリア-たん白が増加することによることが明らかとなった。 3.Tolbutamideの場合は糖尿病時に消化管からの吸収が上昇するにもかかわらず、肝臓における薬物代謝の亢進によりAUCは減少することが明らかとなった。 4.糖尿病時には肝臓におけるチトクロ-ムP-450の含量の増加が認められ、代謝亢進と一致した。 5.糖尿病時には血漿中のアルブミン濃度が低下するため薬物の血漿たん白結合が低下し、また血漿量も減少することから、たん白結合率の大きな薬物で特に遊離形薬物の血漿中濃度が上昇することが明らかとなった。 6.Caphalexinの体内からの消失が糖尿病時に亢進することから、糖尿病的には腎排泄も促進することが示唆された。 以上のように、糖尿病時に薬物を服用した際、消化管からの吸収は増大するが、消失過程が肝臓における代謝も腎臓からの排泄も亢進するため、血漿中濃度は治療濃度に達しないかあるいは達しても持続しないことがある可能性が示された。また、糖尿病時にはたん白結合、アルブミン濃度および血漿量が低下するため、血漿中たん白結合の大きな薬物では、副作用の発現する危険性が高い可能性が示された。
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