冠動脈におけるカルシウム(Ca)拮抗薬結合部位即ち受容体機構を解明するため、ブタ冠動脈を用いてジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬の^3H-ニトレンジピン(NTD)と^3H-PN200-110(PN)を標識リガンドとして、受容体結合測定法によりCa拮抗薬を同定し、その特性について検討した。〔実験成績〕(1)ブタ冠動脈において^3H-NTDと^3H-PNの特異的結合能が認められ、この結合能は飽和性を示した。このScatchard plotはー直線(単ーな結合部位)となり、これより求めた両標識リガンドの解離定数(Kd)はそれぞれ、0.6、0.2nM、最大結合能(Bmax)は42、88fmo/mg proteinであった。また、両標識リガンドの結合は、非標識ニフェジピンの添加により解離がみられた。(2)冠動脈への^3H-NTDと^3H-PNの結合は、DHP系Ca拮抗薬により選択的に抑制され、その抑制効力は(+)PNとYM-09730-5が最も強力で、以下、ニソルジピン>ニカルジピン>NTD>ニモジピン>ニフェジピン>(-)PNの順であった。薬理活性の高い非標識(+)PNの抑制作用は、光学異性体の(-)PNより140-300倍強力であった。これら8種のCa拮抗薬による両標識リガンドの結合能阻害強度(Ki)と、摘出ブタ冠動脈のK^+拘縮抑制効力(IC_<50>)との間に、有意な正の相関性が認められた。(3)冠動脈への両標識リガンドの結合能は、非DHP系Ca拮抗薬のべラパミルとD-600により部分的に抑制され、ジルチアゼムによって増強された。(4)冠動脈への^3H-NTD結合のKd、Bmax値及びDHP系Ca拮抗薬の阻害効力(IC_<50>)は、大動脈の場合と差異がなかった。〔結論〕ブタ冠動脈への^3H-NTDと^3H-PNの特異的結合能は飽和性、高親和性、可逆性、薬理学的及び立体特異性を示したことから、本組織には、DHP系Ca拮抗薬の薬理効果と密接に相関した機能的な受容体が存在し、^3H-NTDと^3H-PNは、これら受容体を選択的に標識することが明らかとなった。また、^3H-PNは、^3H-NTDより特異性が高く、血管系Ca拮抗薬受容体測定にすぐれた標識リガンドと言える。
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