研究概要 |
1.1972年から87年までの16年間に治療された頸部腺癌111例について組織学的再分類を含む臨床病理学的検討を行った。この間に腺癌の頻度が子宮頸癌中の5%から10%へと上昇した。これは扁平上皮癌の減少による相対的な上昇であった。臨床進行期では早期癌症例数が少なく、進行癌の予後は扁平上皮癌に比較して不良であった。予後を左右する因子として、原発巣の大きさ、浸潤の深さ、リンパ節転移、腹水細胞診の結果等が考えられた。 2.基底膜の成分であるラミニンとIV型コラ-ゲンの免疫組織染色を行ない、その結果基底膜が強く厚く染色されるTypeI、基底膜が弱く薄く一部欠如するTypeII、基底膜が弱く断片的に染色されるTypeIIIに分類した。高分化型腺癌はTypeIが17例(71%)で残りはTypeIIであったのに対して、低分化型では5例中4例(80%)がTypeIIIであった。上皮内腺癌はすべてTypeIであったが、悪性腺腫は組織学的に極めて高分化であるにもかかわらず、TypeIIIが83%であった。Type別の予後はTypeI,TypeIIに比較してIIIが悪く、組織分化度別の予後でもTypeIIIが多い未分化型や悪性腺腫が悪かった。基底膜の染色性と予後の間に関連が見られた。 3.腺癌のhigh iron diamine(HID),Alcian blue(AB)による粘液染色を行ないその結果をそれぞれに対する染色態度で検討した。純粋腺癌は両者陰性、正常細胞はAB陰性、HID陽性、そして悪性腺腫は両者陽性となった。腺癌と悪性腺腫は正常細胞を中心にして癌では機能を失う方向に、悪性腺腫では新たな分泌能を獲得する方向にと、反対の方向に脱分化していると考えられた。こりより、悪性腺腫を腺癌の最も分化した癌と考えるより、通常の腺癌とは機能的に全く違う腫瘍と考えた方が、その治療成績の悪さとも合致すると考えられた。
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