昨年度、グラフ理論による数式微分の手法により関数の偏導関数を求めるプリプロセッサをC言語を用いて作製した。このプリプロセッサにより科学技術計算のための高精度数学ソフトウェアの開発を、以下のように行った。 1.計算機上で計算を行う際、計算結果は常に有限の精度でのみ得られる。これは計算の各段階で発生する丸め誤差の累積に帰因する。得られた結果の精度を推定することは、計算結果の品質保証のため大変重要である。従来は区間演算の手法により推定されたが、この推定区間が大きくなりすぎ実際的ではなかった。これに対して、区間演算に数式微分の手法を組込むことにより、より精密に計算結果の誤差の区間を推定できるようになった。 2.積分区間の中に発散する点をもつ関数や、激しく振動する関数の一次元積分の近似値を求めることは困難な問題である。これらの積分のうち、特に振動積分に対して関数の微分計数の知識を利用することにより、高精度でかつ能率的に近似値を計算する自動積分プログラムを作製した。数値実験の結果、1階微分係数を利用したエルミ-ト補間多項式の低次式を基本にして、積分区間を関数の変化の激しさに応じて適応力に分割してゆく手法が効果的であることがわかった。 3.今後、数式微分を利用して他の特異関数の一次元積分および多次元数値積分のための高精度数学ソフトウェアを開発したい。
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