従来眼球輻輳運動は立体視要因の一つであると考えられてきたことに対し、我々はこの運動は左右対応点探索時には見られず、むしろ立体知覚後の立体保持過程に出現するという結果を得た。そこで、本研究の目的はこのことの実験的検証の補強を行うことである。 1.眼球運動計測システムの構築:本研究では、各種のRDS(ランダムドット・ステレオグラム)を用いて立体知覚実験を行った。まず、赤外線テレビジョン両眼眼底カメラ、画像処理装置EXCELーII、パソコンを接続し、パソコンで各種のRDSを作成した後、EXCELーIIで左右眼に振分けて、眼底カメラ内のCRTにRDSを呈示するシステムを構築した。測定した眼球運動デ-タ(時系列眼底像)はVTRに録画される。眼底像の中で特徴的な(視神経)乳頭の動きを眼球の運動と見なし、SSDA法によるテンプレ-トマッチングを用いて乳頭位置を決定し、眼球移動量を水平・垂直方向の運動に分け、視角にして0.08度の画素精度で眼球運動を求めた。 2.立体知覚実験:(1)順次、異なった4種類のRDSと、その各RDS間に雑音パタ-ンを挿入して時系列的に呈示した時の知覚実験、(2)高速に順次4種類のRDSを呈示後、種類の異なった雑音パタ-ンの呈示時間を変化させて行った知覚実験、(3)凹凸両方を含むRDSパタ-ンを用いた(1)、(2)の知覚実験、等を行った。その結果、(1)RDS呈示後の知覚時間は150〜300msec位である、(2)RDSの呈示時間と雑音時間の比率が立体知覚に影響を与える、(3)立体知覚時の眼球運動を求めた結果、我々の説通りRDS呈示直後は共同運動がみられ、立体知覚後になって始めて輻輳運動が出現し、この輻輳は数秒間持続する(立体保持過程)結果が得られた。これは立体知覚は大脳で行われ、その後この知覚を助長ないし保持するために、輻輳運動がおこるのではないかと考える。
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