本研究は溶剤染色系に使用されている有機溶媒、あるいはその混合溶媒中における染料の状態や染料と溶媒との相互作用について、溶媒の極性や水素結合性の指標となる複数のパラメーターを用いて整理することを目的とした。先ず、単一溶媒について、水素結合供与性の大きいアゾニアベタイン色素及び水素結合受容性の異なる4-ニトロアニリンを指示薬として、これらの色素の紫外-可視スペクトルにおけるソルバトクロミズムと溶媒の極性、水素結合受容性、水素結合供与性とを関係付けることによって、溶媒パラメーター(極性、水素結合受容性、水素結合供与性パラメーター)を決定し、溶媒効果をパラメーター化によって整理した。さらに、この方法を混合溶媒系に応用して、溶媒効果の解析を試みた。しかし、混合溶媒中において、色素は選択溶媒和されているため、同一濃度比であっても溶質によりその回りの溶媒組成が異なるので単一溶媒については効果的であった方法を単純に適用できないことが分った。このため選択溶媒和モデルを用いて混合溶媒系のソルバトクロミズムの解析を行い、混合溶媒中における染料の溶媒和の状態について検討し、選択溶媒和の面から混合溶媒系の性質を解析することとした。混合溶媒のソルバトクロミズムに対する混合組成の影響は大きく、特にアセトンなど非プロトン性溶媒と水との混合系においてはこれらの特性が連続的な変化を示した。このようにアゾニアベタイン色素は周囲の極性、水素結合相互作用の変化により顕著なソルバトクロミズムを示すため、分子集合系やシクロデキストリン中のように疎水場が期待できる系に色素を水から包接させた。カチオン、非イオン界面活性剤およびγ-シクロデキストリンと水の系において、これらの濃度の増大とともに色素のソルバトクロミズムの変化が認められたが、期待されるほど大きなものではなかった。
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