2年間の本研究のまとめは、以下のとおりである。 1.ドイツの企業内研究所についてはZeiss社の光学技術研究所を重点的に取り上げた。とりわけE.AbbeとO.Schottがプロセイン政府に提出した2点の報告書、および1876年のロンドンで開かれた科学装置に関する万国博覧会の報告書「顕微鏡の光学的補助手段」を中心に、同社光学技術研究所の成立過程を、主として(1)光学ガラス技術史、ガラス工学史(Schottの無機材料化学的光学ガラス研究)、(2)顕微鏡の技術史と科学史(Abbeの物理光学的顕微鏡研究)との関連で明らかにした、しるいは明らかにしつつある。 2.その際従来ない視点として、とくに上記(2)についてイギリスとの関わりがあり("Loan Collection"や王立顕微鏡学会を通して)、本年度新たにその方向で資料収集と解析が進められた。これによって、1870年代ドイツにおける技術導入とその科学化(「科学器具学」の成立)と技術確立、それによるドイツの技術上の地位の確立のプロセスについて重要な知見が得られた。 3.ドイツの産業家・技術者連盟については、Berlinの勧業連盟を取り上げ、同連盟機関誌による1870-90年代の人的構成と扱った技術的課題の変遷の分析を進め、上記課題との関わりを中心にとりまとめを行いつつある。 4.日本に関しては技術と工学問題の具体的関連を明確にするために、鉄鋼連盟、窯業協会での耐火材規格統一などに関する研究が進み、技術導入を基礎とした日本の技術確立過程における企業内研究と工学問題に関する理論的検討、広義の化学工学史への位置づけを行った。 5.現在全体としてそのまとめを行っているところである。
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