本研究課題による科学研究補助金による第2年目の本年度は、最終年度に当たることもあり、できるだけ集中的な資料の収集と研究報告の執筆に従事した。外国からとりよせたマイクロフィルムの焼付けと国内資料の閲覧、および関係図書資料の購入についてもできるだけ的を絞ったものとならざるを得なかったが、資料収集方についてはかなり多量かつ多方面のものが収集できた。 本年度の研究は、中国の明末の1630年代前半に完成された『崇禎暦書』について、本研究員が過去の研究で見落としていた点、および原典が収集されていなかったものについて集中的な研究をおこなった。その結果、11の研究発表の代2欄に書いたように、崇禎改暦の最高責任者の徐光啓の方針、すなわちヨ-ロッパ天文学の内容を中国の改暦に役立てるという目標が『恒星暦指』および『恒星表』という文献を具体化した『見界総星図』のなかに生かされていることを発見した。この『見界総星図』は、別に『恒星総図』として完成された星図に相当するということも明らかにできた。こうした星図は中国人学者の協力を得たアダム・シャ-ル=フォン=ベルの責任によって、中国伝統天文学とヨ-ロッパ天文学の知識を結びつけて完成したものである。 本研究課題の資料収集にかかわる作業のなかで、19世紀になって中国の洋務運動期に中国に導入されたヨ-ロット科学技術の知識についてもかなり明らかになった。副次的な研究の産物であるがシ-ド的な意味づけがなされるものであり、上海の江南製造総局の繙訳局が出版した170種にのぼる主として欧米科学技術書の翻訳事業について、その特徴と意義、翻訳された訳書の種類と時代的推移のなかでの傾向についても明らかになり、それについても研究発表の代1欄に載せたような成果を得ることができた。
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