2年度にわたる本研究課題において中国明末の崇禎改暦に寄与したヨ-ロッパ天文学の内容について、『崇禎暦書』に含まれる『恒星暦指』や『恒星表』、および星図について検討し、他方、ヨ-ロッパから持って来られた原典を収集し、両者を比較してみた。内容が尨大なものとなるため、限られた年限の本研究においては、当時の改暦事業のなかで作製された見界総星図の原図をパリ国立図書館で発見し、それを集中的に検討する作業に重点をおいた。その結果、この星図の作成過程のなかでは徐光啓をはじめとする中国人学者とアダム=シャ-ル=フォン=ベル(湯若望)らイエズス会科学者の密接な共同作業の結果として、『崇禎暦書』が訳出編纂されたことを明確にすることができた。特に見界総星図は従来の研究では発見されず、内容について不明であったが、パリ高等研究院のジャミ博士の協力を得て、その原史料を入手することができ、その分析を行なうことができた。この星図は、ヨ-ロッパの天文学の知識が中国伝統の天文学体系のなかに生かされるという努力の結果であることがわかった。それは、徐光啓が「彼方の材質をとかして大統の型模に入れる」と主張していた言葉を象徴するかのような成果であったことが明確になった。本研究課題によって収集された史料をさらに発展的な研究に結びつけることが可能になった。同時に、このテ-マが東西科学の近代はじめの段階における交流という究極的な課題へのつながりが期待できるということが、副次的な収集作業の結果である19世紀上海の江南製造局の翻沢出版集業の研究によって明らかになった。この課題については新たに科学研究費補助金を申請して、開始しなくてはならないものである。いずれにしろ、本課題による研究の成果とともに、新たな研究への端総が多く得られたということができる。
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