研究実施計画で述べたように、HVJウィルスの裏返し膜を調製し、M蛋白やリン酸化M蛋白との結合に必要な條件を検討することにより、生理的條件で細胞にウィルスが侵入して遺伝子が発現する過程の分子機構を明かにしようとしている。 まず、F蛋白もHN蛋白もMも可溶化後カラムクロマトで精製する事が出来るが、精製した純蛋白と脂質画分のみでは、溶血活性や細胞融合活性を持つ膜が再構成され得るのに対して、M蛋白が結合出来る活性を持った裏返し膜を得ることは現在まで成功していない。今までに得られた実験結果から、M結合活性を持ち得るF、HN分画としては、高塩濃度下でTriton X-100可溶化したウィルスから適当な遠心條件下で得られる殆んどMを含まない画分と、この可溶化ウィルスのMを含む遠心上清をSepharose CL4Bカラムに高塩濃度下でかけることにより得られるFとHNを含み殆んどMを含まない画分である。またM画分としては、上記カラムにより得られるほぼ電気泳動的に均一なM画分を用いた。このM画分と、部分的に可溶化したウィルスを用いて得られる、Mがリン酸化されたウィルスからのリン酸化M画分とを競合させて得られる結合体の蛋白のpage後の比色と^<32>Pのオートラジオグラムによる濃度の比をとることにより、Mとリン酸化Mとでは結合能に差があることがわかった。また、ウィルスを蛋白分解酵素処理したものについて行った実験から、Fがトリプシンにより失活しているものではMは結合出来ないこと、キモトリプシンによりF(失活)、Mが部分的に切れていても結合出来ること等がわかった。現在のところ、Mの結合には、高塩濃度でF、HNとともに可溶化される微量の他成分の関与、FとHNの、我々の可溶化條件では完全にこわれていない立体構造上の必要條件等の可能性が否定出来ない。現在これらの点についてと研究計画したが果せなかった問題について実験中である。
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