ラットの正常肝細胞BRLが3種類の増殖阻害因子を分泌することを既に報告した。今回、BRLとその悪性形質転換細胞RSV-BRLがTGF-β様の、酸に安定な増殖阻害因子(GI)を多量に生産することを見出した。このGIの細胞内濃度は、RSV-BRLに比べてBRLの方が約十倍高かったが、細胞外に分泌される量はほぼ等しかった。細胞外に分泌されたGIは分子量数十万の不活性な複合体を形成しており、1M酢酸ph2.3)処理や8M尿素処理によって活性分子に解離した。種々のクロマトグラフィを用いてGIの不活性複合体を精製することができた。この複合体は、非還元条件下でのSDS電気泳動において、分子量180kと25kのバンドを示し還元条件下では120k、30k、13kのバンドを示した。精製された不活性GI複合体を1M酢酸で処理したのち、さらに分画し、活性型のGIを単離することができた。この活性型のGIは分子量13kのサブユニットが-S-S結合で架橋された分子量25kのホモダイマーであり、またpl8.2とpl7.9の少なくとも2種類の分子が存在することが分かった。このpl8.2の精製因子の部分的な一次構造を解析した結果、約20個のN末端アミノ酸配列がヒトTGF-βのそれと一致した。したがって、RSV-BRLが分泌する酸に安定なGIはTGF-βかあるいはTGF-β関連物質であると考えられ、上記のGI複合体のサブユニット組成もヒト血小板から得られたTGF-β複合体にものとよく一致している。精製したGIは、1ng/ml以下の濃度で正常BRL細胞に対して強い増殖阻害活性を示したが、RSV-BRLに対しては非常に弱い活性しか示さなかった。また、数種の扁平上皮癌細胞を除くヒト癌細胞もこのGIに対して非感受性であった。このようなGIが細胞増殖の調節に積極的な役割を果たしており、GIに対する抵抗性の獲得が生体内での癌細胞の増殖性と関係する可能性が考えられる。
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