今年度はヒト腸癌細胞に存在する癌関連糖鎖抗原を単離し、その性質について検討した。ヒト腸癌由来細胞培養株LS180細胞をヌードマウスの背皮下に注射し、3週間後に固形癌を採取した。固形癌よりアセトン粉末を調製し、塩溶液で抽出した。抽出物をセファロース6Bのカラムで分画したところ、単クローン抗体MLS102と反応する抗原の多くは素通り画分に回収された。素通り画分をWGA-アガロースのカラムに通し、O、IMN-アセチルグルコサミンで溶出した。その溶出画分を還元アルキル化後、MLS102-セファロースの抗体カラムに通し洗浄後、2Mチオシアン酸ナトリウムで溶出した。精製標品のSDS-PAGEでは高分子のムチン様糖タンパク質の他に、分解物と思われるバンドが検出された。夾雑物か否かを見る目的でそれらのバンドをニトロセルロース膜にウェスタンプロッティングし、MLS102で検出したところ、すべてのバンドが反応した。従って、すべてのバンドを癌関連糖鎖抗原をもつ糖タンパク質と考え、そのポリペプチド鎖の一次構造を検討中である。次にこの糖タンパク質のLS180細胞における存在状態について検討した。^3H-グルコサミンでLS180細胞を標識し、細胞分画を行なった。各画分より抗原糖タンパク質を回収したところ、大半の糖タンパク質はミクロゾーム画分に回収された。さらに標識した細胞の表面にMLS102を結合させ、十分に洗浄後、細胞を可溶化し抗原を免疫沈降したところ、約90%の抗原が回収され、抗原糖タンパク質は細胞表面に存在することがわかった。また、抗原糖タンパク質は高濃度の塩溶液で遊離することから末梢膜タンパク質であることがわかった。
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