細胞質で合成されるミトコンドリア(Mt)蛋白質は、ポリペプチド鎖がMtの特定領域に局在化して機能分子となる。蛋白質が秩序だったMt内配置をとる現象を分子レベルで解き明かすことは、Mt蛋白質の生合成を理解する上では極めて重要な研究課題であると考える。本研究では、酵母ミトコンドリア外膜の分子量7万の蛋白質(70KDと略)と内膜電子伝達蛋白質の一つであるチトクロムc1を材料として、両蛋白質がミトコンドリア外膜と内膜に結合するための蛋白質の構造や膜を識別するシグナルの実体を明かにすべく研究を行い、以下の知見を得た。 1.チトクロムc1の延長ペプチドの一部あるいは全部を70KD蛋白質のN末端領域に置き換えた人工変異分子は、70KD蛋白質分子にシグナル領域に含まれる情報に応じて外膜、内膜に局在化させることが可能であることが示された。2.チトクロムc1については延長ペプチドのプロセシング部位を欠失させた分子でも内膜に電子伝達能を備えた分子として組み込まれ、延長ペプチドの切断除去が機能分子への変換には必ずしも必要でないことが判明した。3.チトクロムc1の成熟型分子のN末端側に70KD蛋白質由来のミトコンドリア認識領域と外膜結合領域(N末端61残基)を融合させた分子は、酵母細胞内で外膜に結合する。野生型酵母でのこの融合蛋白質が持つ上記の膜結合能が乱れて、同じ融合蛋白質がもはや外膜に留まることができずに、機能するチトクロムc1分子として内膜に存在する変異酵母株が選別された。さらに、この変異酵母より膜結合特異性の変化にあずかっている遺伝子の単離に成功した。今後はこの遺伝子の構造決定と産物同定を行い、その作用機作を解析することで、膜識別機構の分子レベルでの理解に大きく寄与することが期待される。
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