昨年度に引き続き、DNA操作(cDNAの人工的変異と酵母での発現)に酵素蛋白質の精製とその性質検討を組み合わせた解析を行い、ラウリン酸ω-1水酸化酵素の機能部位について以下の通り有意義な知見を得た。(1)C末端28残基をテストステロン16α水酸化酵素(ラウリン酸ω-1水酸化酵素と一次構造上81%の相同性をもつが、この部分は両者間で最も差異が大きい)の対応部分で置換すると、脂肪酸水酸化の基質特異性は変わらないが、活性強度は約3倍に増加した。その上、もとのいずれのP-450を示さなかったテストステロン16β水酸化活性が現れた。このことはラウリン酸ω-1水酸化酵素が分子内部にステロイドを結合できる構造をもち(分子進化の名残りと思われる)一方C末端部分は基質の選択に働くことを示唆している。(2)昨年度の解析結果を発展させ、ヘム鉄の遠位に接して位置すると推定されるThr-301を系統的にさらに変化させ、またその隣Thr-302の置換および301、302両残基の置換を組み合わせた変異体を作成して調べた。その結果この位置のアミノ酸側鎖1個の長短、基質の炭素鎖2個の長短とそれらの組み合わせが水酸化活性強度と水酸化位置決定に微妙に影響することが判った。(3)昨年度までに基質の結合に働いていることを見出していた210-252の領域については領域内の塩基性アミノ酸クラスタ-に着目し、点変異を利用して解析したところ、塩基性アミノ酸は予想に反して必須ではないことが判った。(4)エタノ-ル誘導型P-450(P-450IIE)の酵母での発現系を確立、精製ののち性質を確認した。酸化型で高スピン型を示すが、301残基周辺はラウリン酸ω-1水酸化酵素と同じアミノ酸配列をもち、ラウリン酸ω-1水酸化とアルキルニトロソアミン脱アルキル化の活性をもつので、今後本研究の成果を深めP-450に一般的な基質作用領域の解析を進める材料の一つとして好適である。
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