損傷を受けたDNAが修復された後シトシン塩基のメチル化のパターンまでも損傷を受ける前と同じになるかどうか、またもし変ればそれが老化や癌化といったDNA損傷によって誘発されると考えられている生物現象の過程でのメチル化の変化をどのような関連性がみられるかをC-myc遺伝子を指標として調べた。 (1)ヒト8週令胎児より培養に移した線維芽細胞をstationary phaseにし、更に低血清下で細胞分裂を停止させ紫外線を1回20J/m^2で週2回づつ10回照射し、その後で生き残った細胞の中から9クローンを分離し増殖させDNAを解析した。コントロールとしては非照射のものから同様の過程で8クローンを分離した。それらについてC-myc遺伝子近辺のメチル化を調べたが照射による影響はみられなかった。 (2)同じ要領でマウスの線維芽細胞(m5S細胞)を用いて調べると照射したものでは20〜30%のクローンにメチル化の変化がみられた。 (3)一方C3H雄マウスに自然発生した肝癌4例と放射線照射後発生した肝癌7例についてC-mycのメチル化をみるといずれも3′側で増加しているのがみられた。 (4)さらにヒトの肝癌21例について調べると3′側でメチル化の増加が、また5′遠方5kb付近で脱メチル化が高頻度に観察された。 (5)ヒトの肝の老化過程ではC-mycの3′側でメチル化の増加がみられる。 以上の事からマウスでもヒトでも老化や癌化の過程で高頻度にメチル化の変化がみられ、それがマウスではDNA修復後のメチル化の変化に関連していると考えられるが、ヒトでは明らかでない。
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