本年度の研究計画の主体はC3H10T1/2細胞トランスフォーメーションアッセイ系によるPKG活性化物質及び阻害物質のトランスフォーメーション修飾効果であった。研究のポイントとなるトランスフォーメーションアッセイは血清ロットなど多くの要因に影響されやすいことが知られているが、我々は既に再現性のあるトランスフォーメーション誘発の実験条件を設定できた。現在、各種放射線誘発の細胞致死及びトランスフォーメーション頻度が求められ、それに対するTPA、α-スロンビン、ジアシルグリセロール及びH-7添加実験の一部が終了した段階である。以下にその結果の要約を述べる。1.照射直後にTPAを添加した結果、TPA濃度依存性にトランスフォーメーション頻度が増加した。しかし、高濃度ではTPA添加による細胞生存率の上昇が見られたので、ここでは100μg/mlを最適濃度として次の実験に使用した。2.細胞成長因子α-スロンビンもTPAと同様にPKC活性化作用を持つことが知られているのでその効果を検討した。その結果、50μg/mlのα-スロンビン添加は細胞増殖速度、PEをともに2倍以上に促進するが、照射細胞に対するトランスフォーメーション増感効果はみられなかった。3.PKC活性化物質ジアシルグルセロール20μg/mlをTPA処理後に添加した結果、放射線誘発のトランスフォーメーション頻度を1/10以下に減少した。4.同様にPKC阻害剤H-720μg/mlの添加はトランスフォーメーション頻度を著しく減少させた。但しこのH-7濃度では細胞増殖の阻害も見られた。以上のように、等しくPKC活性を刺激するにもかかわらず、α-スロンビン、TPA、H-7、ジアシルグリセロールのトランスフォーメーションに対する効果は一様ではない。これはPKCは異なった数種類の分子から構成されており、それぞれ細胞内で異なった役割を分担しているとする仮説を強く支持するものである。
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