本研究では、ヒトおよびハムスターの胎児より採取した初代培養細胞をもちい、X線などで誘発した各種がん細胞における細胞変化を、1)軟寒天中におけるコロニー形成能、2)細胞層(Cell mat)上でのコロニー形成能、3)動物移植性、4)染色体の核型変化、5)無限増殖能の獲得、6)がん遺伝子の増量および活性化、などのがん化形質を選びそれぞれのがん化形質の発現と悪性度との関係を検討した。X線照射されたハムスター細胞において、照射直後に線量依存的に起きる変化は形態変化コロニーの出現のみであった。他のがん形質の発現には、照射後かなりの細胞分裂を必要とするのに加え、発現頻度に線量依存性は認められない。形態変化したコロニーが、その時点で本当にがん化しているか否かは疑問であるが、そのコロニーをクローニングすると80%以上が無限増殖能をもち最終的には移植できる細胞に変化するので、形態的変化を起こした時点ですでにがん細胞になる運命を得たと推測される。ついで、ハムスター細胞から作ったがん細胞30種につき、がん化に関連する遺伝子の増量あるいは活性化を調べたが、調べた限りではDNAおよびRNAのいずれのレベルにおいてもがん化と相関した変化はみつからなかった。一方、タンパクレベルでは正常細胞とがん細胞で電気泳動パターンにかなりの相違があることがわかった。特に正常ハムスター細胞で220kd付近に顕著にみられる2本のバンド(220および240kd)が、すべてのがん細胞で一方のバンドがなくなっていることが明確である。この現象の意味はまだ不明であるが、これまでに報告したがん細胞における染色体の数的異常の関与を推測している。しかし、ヒト細胞では、ハムスター細胞で容易に起きる形態変化も、軟寒天中での増殖能獲得も、無限増殖の獲得も容易には起こらなかった。
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